Kさんと現地でのスケジュールを打ち合わせる中で「ウミアカトンボ」という名前が挙がった。
ウミアカトンボ。
図鑑による知識では、移動性が強いウスバキトンボのような種類で、姿形もウスバキトンボに似ている。
国内で定着しているのは大東諸島で、時おり、分布域を遠く離れた場所にふらりと現れ、話題になるこ
ともある。もちろん、手にしたことも見たこともないトンボなので、自分にとって遠い存在だ。
こんな掴み所のないトンボが、いま自分達が立つ島にいるという話は、俄には信じがたい。
2日目。
島に渡った午後、Kさんにウミアカトンボのポイントに案内してもらう。場所は海沿いの水田地帯。
車がポイントに入るなり、「いた!」とKさん。Kさんが指差す先を見ると、水田の岸辺に生えた雑草の
先端にちょこんと赤く小さなトンボが止まっている。あれがウミアカトンボ、、。
追加を探して畦道を歩くと、再び発見。ソロソロと竿を伸ばすが、途中で感づかれて飛び去ってしまっ
た。さらにその先にも発見。今度はさらに慎重に、、。また飛ばれる。
その後も何度となく同じことを繰り返し、まるで真っ昼間のアオサナエのように敏感なウミアカトンボ
に大苦戦。遮るものがない水田地帯だが、海からの風が常に吹いているので、それほど暑くないのが救
いだ。
気持ちが萎えてきた頃に、ようやくネットに入れることができた。
ウミアカトンボ 左:雄 右:雌
手にして見ると、予想外にボリュームがある。大きさの感覚はベニトンボくらいだろうか。身体に対し
て頭部が異様に大きいアンバランスさも、ボリューム感に一役買っているのだろう。ウスバキトンボと
大差ないというこれまでの印象は、大きく覆された。見れば見るほどおかしなトンボだ。
余裕が出てきた所で、竿をカメラに持ち替えて接近。
カメラだと警戒心が薄れるのか、簡単に近寄れる。
その後も観察を続けたが、この水田地帯には数はそこそこいて、交尾や産卵も見られた。定着している
のだろうか。
ウミアカトンボは、昨年あたりから沖縄本島でも記録が散見され始めたようだ。
元々移動性が強い種類だけに、この状況は、アオビタイトンボやベニトンボのような大北進の前触れな
のかも知れない。
それはさておき、初採集による新鮮な驚きは、久々だ。今回は初採集が他にも沢山あり、それが旅に充
実した彩りを添えてくれた。
この驚きと発見があるから、南方遠征は楽しいのだ。
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