蒸し風呂のようなジャングルを移動するときは、不快な状態を少しでも忘れるために、足元や道脇の枝
に潜む生き物たちに目を向けるようにしている。
マダラアシナガヤセバエ
クワズイモなど、幅が広い下草で見かけることが多い異形のハエ。目立つ前脚のぬるぬるとした不思議
な動作に見入ってしまう。八重山まで来ないと見られない種だと思っていたが、対馬からも発見された
らしい。果たして同種なのだろうか。
ナナホシキンカメムシ
いつもは単体で出会うが、今回は小規模な集団を見つけた。薄暗い風景の中、金緑色が妖しく輝く。
サキシマカナヘビ
八重山では普通種らしいが、見かけたのは初めてかもしれない。うまく背景に溶け込んでいるつもりだ
ろうか。
そして今回の旅で最も嬉しかった出会いの甲虫2種。
クロカタゾウムシ
これも八重山特産種で、訪れる度に出会いを願っていた。しかし食性も習性も知らないので、出会いは
運任せだ。今回は足元のシダ植物に付くのをKさんがまず発見、そのすぐ後に自分もやはりシダ植物に
付く個体を見つけた。
飛ぶことを犠牲にしてまで身体を固くすることに特化した、その力学的フォルムは、実際に踏みつけて
試すまでもなく、充分にその硬度を視覚に訴えかける。
ヨツモンオオアオコメツキ
これが下草に佇んでいる姿を見た時は、興奮で震えた。
大きさはヤマトタマムシ級。全身を包むメタリックな輝きは、今までのコメツキムシの概念を一瞬で崩
壊させる。
与那国には、近縁で、さらに美麗なノブオオアオコメツキという種が生息している。内地の甲虫とは全
く異質な、その熱帯の雰囲気漂う姿形は永年の憧れだ。今回手にしたのはノブオオアオではなかったが、
一歩、憧れに近付けた気がした。
ノブオオアオはカラスザンショウに付くらしいが、ヨツモンオオアオの方は、どうなのだろうか。いず
れにしても、本来の棲息ゾーンではない、林床で出会った幸運に感謝。
南方遠征は、訪れる度にこうした素晴らしい出会いや発見があるから、どうしても止められないのだ。
この状態を、世間では中毒と呼ぶ。
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