カトリヤンマは、浅い池や水生植物に覆われてほとんど水が無いような湿地に棲む。
無農薬の山沿いの田んぼなどは格好の生息地で、アキアカネと共に田んぼの耕作リズム
をうまく利用し、繁栄してきたトンボだ。
しかし、そんな環境など望むべくもない東京都内では、棲息は風前の灯火、といった状況。
唯一の多産地であった武蔵村山市の都立公園の田んぼ(厳重に管理されていて、「大人」の昆虫採集は禁止)
では、みたところ今年は激減している模様。今後の推移が心配だ。
そんなカトリヤンマは、7月下旬に羽化し、遅い年は、11月まで見られることがある。
他のトンボが次々に息絶える中、紅葉の谷津を元気に飛び回るタフなヤンマだ。
性的に未熟な時は鬱蒼とした森林内でひっそりと過ごすが、初秋に成熟すると一転、
明るい空間に飛び出してくる。
こんな生態から、カトリヤンマは「秋のヤンマ」というイメージがある。
10月に入ると、さすがに秋のヤンマも、だいぶくたびれてくる。特に雌は繁茂した植物の
中に潜り込んで産卵するので、翅がすり切れやすい。
下の2枚の写真。
上が8月のもの。
下が10月のもの。
同じ種とは思えない、、。
カトリヤンマ雌:茨城県産:体長70mm前後
カトリヤンマ雌:長野県産:体長65mm前後
しかし、このボロボロにすり切れた翅も、なんとも味わいがある。
昆虫の標本は、脚が欠けていたり、翅が破れていると、B級品と見なされ価値が急落する。
だが僕は、(自然に欠落したものであれば)欠損は否定しない。
なぜなら、それはその個体の生きてきた中での、行動の軌跡だからだ。
産卵で翅がすり切れることもある。
雄同士の闘争で翅がすり切れることもある。
あるいは、鳥に摘まれて翅が破れ、危うく逃げのびたのかもしれない。
僕のトンボ標本の制作テーマである、「物語」を感じるのだ。
写真の翅がすり切れた雌は、どんな物語を持っているのだろうか。