トンボの日々

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2016年 12月 12日

サナエ三兄弟

河川中流の中型サナエ三種。

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左から、ミヤマサナエ雄雌、オナガサナエ雄雌、アオサナエ雄雌

体の大きさも、棲む環境も似通った兄弟のような三種だ。三兄弟の中で一番良く見られるのがオナガサ
ナエ。アオサナエは生息地に行けばそこそこの個体数だが、ミヤマサナエはどこに行っても数が少ない。

鮮やかなグリーンに彩られたアオサナエはトンボを始めた当初から憧れだったが、オナガサナエやミヤ
マサナエの魅力に気付いたのはずっと後になってからだ。
もっとじっくり向き合いたいのだが、この二種の活動ピークである盛夏はヤンマにかまけてなかなか川
に行く機会がない。

滔々と流れる川面を縦横無尽に飛び回る中型サナエたち。来年こそは、気が済むまでその魅力を味わっ
てみたい。






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by brunneus | 2016-12-12 17:06 | Comments(0)
2016年 09月 19日

マダラヤンマの夢

季節は中秋。場所は関東かもしれないし、甲信越、いや東北、もしかしたら北海道かも知れない。

ゆっくりとゆっくりと、一歩に神経を集中させ、ガマの密林の中を進んでいる。足を前に出すごとに、
腹のあたりから漂う胴長のゴムの匂い。頭上を延々とオオルリボシヤンマの雄が旋回している。まるで
こちらの行動を監視しているかのようだ。

少し開けた水面に出ると、決まってガマの根元からオオルリボシヤンマの雌が飛び出す。飛び出したと
ころで歩みを止め静かに注視すると、やがて雌は再びガマの根元へ降下し、産卵を開始する。


もう何周しただろうか?
水の抵抗を受けながらの足の上げ下ろしは、太股に予想外の負担をかけているらしく、筋肉が悲鳴を上
げている。

気付くと頭上のオオルリボシは姿を消し、午後の陽射しを浴びてマダラヤンマの雄が得意のホバリング
を始めた。

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西風を受けながらぴたりと空中に停止する姿に見とれていると、足元から「かさっ」という小さな音がし
て、小型のヤンマが飛び出した。オオルリボシではない。疲れは吹き飛び、小さな黄色いヤンマの動き
に全神経を集中させる。ヤンマは5mほど先のガマの根元に着地した。緊張と焦りで口の中が乾く。も
たもたしているとヤンマは密林の奥へ潜り込んでしまう。竿を全開に伸ばし、ヤンマが一瞬ホバリング
した隙に思いきり降り下ろす。ネットの中からは心地よい翅音、、。

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静かなガマの密林の中で手にした、マダラヤンマの雌。
昨年に引き続き今年も出会えた幸運。これは夢だろうか。

夢に違いない。








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by brunneus | 2016-09-19 18:08 | Comments(2)
2016年 08月 28日

雌の日・その2

ここ二年ほど探し求めていたオナガサナエ雌。
探し求めていたと言うより、出会いを期待していた、という程度のものだったかも知れない。採集自体
は過去に何度もしているのだが、山道の日溜まりだったり、職場の階段だったり、どれも突発的な事故
のような出会いだ。
日常生活で突発的事故を望んでも、そうそう起こるものではない。

8月中旬。
休日だが、予報はあまり芳しくない。身体が怠く、早起きも出来なかった。こんな冴えない日の午後に、
ふと思い出したのが、西多摩の川。今年の春にサナエを見に行って空振りした場所だ。もともとオナガ
サナエのポイントとして聞いていたので、行ってみる気になった。

15時半、ポイント着。薄曇りで涼しい。
川原に降り立ち見回した限りでは、オナガサナエの姿はない。やはりダメか。足元にペタペタ止まるコ
オニヤンマを蹴散らしながら歩くと、石の上にスリムなサナエの姿。オナガサナエ雄だ。
少しやる気が出てきてさらに歩き回ると、直感でいかにも雌が飛んできそうな風景に出会った。緩やか
に流れる川面。その近くにさらさらと波立つ瀬がある。
この場所に腰を据えることに決め、靴のままじゃぶじゃぶと入水。

16時24分。
一向にオナガサナエが来ないので、場所を間違えたか、と荷物を持って移動しようとした時、上流から
中型のトンボが物凄い速さで飛来し、緩い水面をぐるぐる旋回しはじめた。雌!!
旋回の範囲が段々狭くなるのを待ち、ネットを水面に叩きつける。水中で輝く緑の複眼!

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オナガサナエ 左:雄 右:雌

この後は、17時半までの間に5回雌が飛来。どの雌も、上流から物凄い速度で一旦下流へ飛び去り、再
び戻ってきて緩流部、もしくは瀬の部分でホバリング、というパターンだった。その動きはアオサナエ
の産卵を思い出させる。

終わってみれば、時間も場所も、行動も教科書通り。今日のオナガサナエは、実に分かりやすく振舞っ
てくれた。

オナガサナエを待つ間、対岸の暗がりを時々、せかせかとトンボが通りすぎるのが見えていた。試しに
ネットに入れてみると、出てきたのはこのトンボ。

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コシボソヤンマ 左:雄 右:雌

全くの偶然だが、産卵場所を求めて飛んできた雌も手にすることができた。
コシボソヤンマは、かつては都内では希なヤンマであると思い込んでいたが、実際にはオナガサナエと
同所的に広く見られるようだ。


冴えない日でも、想いもよらずに充実した時間がやってくることがある。
オナガサナエ雌の呪縛から解き放たれた、最高の休日。






  

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by brunneus | 2016-08-28 17:31 | Comments(0)
2015年 09月 27日

3種

昨年のこと。マダラヤンマの雌を採った帰り道、ふと、あることが気になった。

「本州産ルリボシヤンマ属(Aeshna)の雌が揃った年は、はたしてあるのだろうか?」

本州産ルリボシヤンマ属というのは、ルリボシヤンマ、オオルリボシヤンマ、マダラヤンマの3種だ。
ルリボシとオオルリボシに関しては、その気になれば雌を採ることはできる。マダラは運次第。

上田市での採集ができなくなってからというものの、チャンスが少なく、各地から猛者が集結する北
関東のマダラヤンマの産地からは足が遠のいていった。その間にも、ルリボシとオオルリボシの雌は
細々と採ってはいる。

そんな経緯があり、Aeshna属3種の雌を手にしたシーズンが無いことに気付いたのだった。
昨年、秋が深まり取り憑かれたようにルリボシ雌を求めて彷徨ったのも、マダラ雌、オオルリボシ雌
を手中にした状況はこの先ないかもしれない、と思ったからだ。

しかしそれも叶わなかった。

そして今年。

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上左:オオルリボシヤンマ雌 上右:ルリボシヤンマ雌 下:マダラヤンマ雌

ようやく念願の3種が揃った。
上の画像の個体は、先日の北国の産地で採集したもの。ルリボシ雌は、ガマの中に静かに降下するシ
ルエットを察知。マダラにしては少し大きいな、と思いながらも飛びつき、ネットの中から出てきた
のがこの個体。
Aeshna属3種の雌が同じ水域で採れることに驚いた。

ちゃんと(?)トンボ採りをしている人間からすれば、Aeshna属3種の雌が揃うシーズンは
珍しくないのかもしれないが、面倒臭いことが大嫌いで、集中力が無く、「ものぐさ採集」を得意と
する自分にとっては快挙なのだ。

この画像を見ていると、もう今年のシーズンは終わったような気持ちになってしまうのも、向上心が
無い証拠、、、。
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by brunneus | 2015-09-27 15:20 | Comments(2)
2013年 06月 02日

第2ステージ

ゲームというものを殆どやらないのだが、トンボ採りというのは、どこかロールプレイングゲームに似
ていると思う。
春一番、千葉のトラフトンボや多摩のムカシトンボが第1ステージだとすれば、今年も無事クリア。
そして初夏の中流地帯のサナエと、サラサヤンマが第2ステージだ。

2日前。
まんまと休日と晴天がぶつかった。(予期して半分狙っていたのだが、、。)
この時期の目的地はただ一つ、埼玉の中流域だ。行かねばと思いつつ、関東が梅雨入りしてしまったの
で、この日を逃すと今年はもうチャンスはあるまい。しかしハナから早出するつもりはなく、のんびり
昼前のサラサヤンマ産卵からスタート、というプランにした。狙いのアオサナエ産卵も夕方だ。どうも
年々早起きが辛くなってきているようだ。若者の始発での採集行が眩しい。

ポイントには10時半に到着。快晴無風。河原をさっと見てみると、サナエどころか、トンボの姿が無
い。今日は暑すぎるので、早めに午前の活動を終えたのかもしれない。そそくさとサラサヤンマのポイ
ントへ。

木陰の湿地に入ると涼やかな風が吹き、心地よい。ハンノキの綿毛が舞う静かな風景の中、雌が入る湿
土の前に陣取る。雄は飛んでいるが、何故か日向ばかり旋回し、木陰には入ってこない。
しばらく待つと、耳元で翅音がしたので振り向くと、なんとサラサヤンマの雌雄の連結体だった。咄嗟
に竿を振るが空振り。しかしサラサの連結はしばらくぐるぐると狭い範囲を旋回する習性がある。落ち
着いて見ていると、案の定戻ってきた。頭上を通りかかった所で振る。

サラサヤンマ雌:体長58mm
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いつものことだが、サラサ雌との出会いは突然だ。

時刻はまだ昼過ぎ。いま河原に行っても暑さに体力を奪われるだけなので、もう少しこのポイントで涼
むことにする。ちょうどおっとりとした性格の雄がいたので、しばらく遊んでみる。この雄はじっとし
ていると鼻や唇、腕に止まりにきた。

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サラサ雄にも飽きたので、川へ。近くの水路は到着した時は何もいなかったが、見てみるとアオハダト
ンボが増えていた。撮影用に採集。手に取ると、妖しく光る翅色の美しさに息を呑む。こんなに綺麗だ
ったっけ、、。

アオハダトンボ雄:体長60mm
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昨年のこの時期ははまだ未熟だったので、成熟した個体を見るのは久々かもしれない。

その後は河原に行くが、時おり通過するコヤマトンボくらいしか目につくものがいないので、木陰で仮
眠。最近は暇ができるとすぐ寝てしまう。

午後4時。日がだいぶ傾いてきたが、河原にはサナエの姿はない。例年だと、もう午後の活動を開始し
ているのだが、、。もしや今日は外れ日か?もしくは急ピッチで進められている河川敷の工事の影響か?

午後5時。ようやく岸辺にサナエの姿。

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アオサナエ雄だ。雄は午前中は異常なまでの警戒心で近づくこともできないが、黄昏時になると雌以外
は眼中に入らなくなるのか、レンズの先が触れるほどに接近できる。

こうなると期待するのが今日のトリをつとめる雌の登場だが、いくら待っても姿が見えない。あたりは
次第に薄暗くなる。

午後6時、納竿。今年も雌にふられてしまったようだ。竿とフレームを仕舞い、土手へと上がる直前に
見えたものに、一気にボルテージが上がった。

すぐ足元の流れで、アオサナエ雌がホバリングしている!

時間的にもこれがラストチャンス。しかし竿は袋にしっかりと収めてしまったばかりだ。竿を出すのを
1秒で諦め、一か八か、先日のオオヤマトンボ雌に続くフレーム手持ちでの勝負。薄暗い中、勘を頼り
にフレームを振り下ろす。手応えあり!

アオサナエ雌:体長53mm
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雌を手にするのは実に3年振り。ここ数年の懸案だった再撮影ができた。
今日ほど、ほぼパーフェクトな内容の日はそうそうないだろう。

第3のステージが、すぐそこに見えてきた。
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by brunneus | 2013-06-02 01:53 | Comments(2)
2013年 05月 04日

方向転換

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今シーズンは、標本写真を撮影するにあたり、今までとは異なる試みを始めている。
4月29日以降の記事でお気づきの方も、もしかしたらいるかもしれない。

何が異なるかと言うと、横位置画像の頭部の向きを、捻って上面を見せる方法から、胴体の方向と統一
した側面の方向を見せる方法に変更した点だ。

古今のトンボの図鑑を眺めていると、ある事柄に気付く。
昔の図鑑は、横位置の標本写真に頭を捻ったものが大多数を占めているが、近年に出版された図鑑は、
胴体の方向と一致させたものが多い。

そもそも頭を捻るやり方は、種の斑紋の特徴が良く出る胴体側面を見せるために横位置標本を使用す
る際、上面に特徴が出やすい頭部を一体の標本で同時に示そうとしたものだ。
これはこれで狭い図鑑の掲載スペースに効率よく標本を並べる方法で、「同定のしやすさ」を優先さ
せた結果なのだろう。図鑑以前に標本箱に収めるための手法として考案されたのかもしれない。
それに対して胴体の方向と統一させた写真を使った近年の図鑑。何故そうなったかは分からないが、
図鑑に対して「自然さ」や「美しさ」を求めた結果なのではないか、と思う。しかしその分、頭部上
面の斑紋が標本写真からは見えなくなってしまった部分は、鮮明な生態写真でカバーしよう、という
ことなのだろうか。

標本撮影方法は全くの自己流なのだが、セッティングの構造上、手間としては頭を捻った方が楽に作
業が進む。しかし楽さにかまけて惰性で撮影するうち、どうも頭の中に引っかかるものがあった。
「頭の方向は、展翅と、横位置で変えなくて良いのか?」
撮影しながら、この疑問が次第に大きくなってきていた。展翅と横位置両方の撮影をするなら、頭だ
けどちらも方向が同じ、という状態が、なんだかあるべき姿でないように思えてきたのだ。
そこで切りがいい今シーズンから頭部と胴体の方向をそろえてみたのだが、やってみるとしっくりく
る。

図鑑というものは、それぞれ目的も異なり、それに加えて作者の信念もあるだろう。

それぞれの制作者の方は、標本写真に関してどうお考えなのだろうか。
一度聞いてみたいものだ。
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by brunneus | 2013-05-04 04:25 | Comments(0)
2013年 03月 01日

ものがたり・その5

物語の続き。

前回までの物語

ものがたり・その1
ものがたり・その2
ものがたり・その3
ものがたり・その4



七月二日

 午前五時半。
 金属的なアラームの音で目を覚ますと、所々に染みがある天井の木目に、ホオグロヤモ
リがへばりついていた。夜中じゅう、耳元できょっ、きょっ、と鳴いていたやつだ。窓の
外はまだ暗い。宿の硬い布団のせいか、効きすぎた冷房のせいか、昨夜は熟睡できなかっ
た。泥のように重い身体を引きずり、ぎしぎしと軋む暗い廊下の先にある洗面所へ向かう。
ぬるい水道水で顔を洗い、鏡に写った浮腫んだ顔を眺めながら歯を磨く。今日一日のスケ
ジュールを整理したいが、うまく頭が働かない。腹は減っているが、まったく食欲がない。

 部屋に戻り、事務的に昨夜買っておいたポーク卵のおにぎりを口の中に放り込む。テレ
ビをつけると、早朝のニュース番組をやっていた。天気予報が見たかったのだが、画面か
らの情報の洪水に耐えられず、すぐに消した。気を抜くと座ったまま眠ってしまいそうだ
ったので、力を振り絞って荷物をまとめる。
 静かな、初夏の沖縄の民宿の部屋の中に佇んでいると、あと十数時間後には東京にいる、
という事実がとても受け入れられない。東京、という概念自体が、一時的に頭の中から消
え去ってしまったのだろうか。友人や仕事といった細部は憶えているのだが、東京、とい
う漠然とした言葉からは何もイメージできなくなっていた。このままここにずっといたら、
仕事や友人さえも頭から消え失せてしまうのだろうか。
 そんなことをぼんやり考えているうちに、窓の外が明るくなり始めているのに気付き、
慌てて竿を掴み部屋を飛び出す。

 外に出ると、海からの程よく冷えた風が頬を掠める。空は群青色。頭上に夜の名残りの
星がひとつ。静かだ。
 いつもと同じように、国道脇の空き地から始める。背後に山が迫った、まばらに草が生
えた空き地。空は刻々と明るさを増し、夜から昼への脱皮の準備をしていた。空き地の入
り口に立ち、ネットを竿に取り付けて周囲の気配に神経を集中させる。すっかり意識は覚
醒していた。
 犬を連れたオバアが歩道を歩いている。犬は雑種。そういえば、沖縄に来てから初めて
犬を見たかもしれない。見えはじめた時と同じ速度で目の前を通過してゆく人間と犬を見
送った時、歩道脇の松の木の裏側から、真っ黒な影が飛び出して来た。影は狂ったように
もんどり打ちながらこちらへ迫ってくる。カラスヤンマ!
 慌てて竿を振ったが、黒い影はひらりとネットを避けてブロック塀の向こうへと消えた。
一瞬の出来事に、消えた塀のあたりを呆然と見つめる。どうやら飛び始めたらしい。いつ
も最初の一匹の出会いは唐突で、採り逃がしてしまうのだ。

 国道を横断し、街中へと入る。家々はまだ深い眠りの中で、物音ひとつしない。排水の
臭い漂う路地の隙間。庭のハイビスカスの裏側。屋根の上のシーサーの向こう。駐車場の
隅。空き地の雑草。国道沿いの小さな街を彷徨いながら、黒い影を探す。まだこの時間は
涼しいが、歩き回るとじっとりと汗が吹き出してくる。
 シャッターが閉まった雑貨屋の前を通りかかると、すぐ先の角を、さっと黒い気配が曲
がった気がした。曲がったあたりに駆け寄るが、何もいない。振り返ると、横の民家のべ
ランダの向こうへ消える影がはっきり見えた。いた!民家の反対側へ先回りすると、影は
海岸通りへと真っ直ぐ続く細い路地を飛んでいる。全力で追いかけるが、影はゆっくりと
飛んでいるにもかかわらず、一向に距離が縮まらない。そして結局、追いつくことができ
ずに海岸通りに飛び出してしまった。植え込みの向こうで、驚いた犬が猛烈に吠えている。
 また見失ったか、、。息を整え諦めて戻ろうとすると、海岸に生えたアダンの葉先に、
ちらっと黒い物が見えた気がした。気のせいかと思いつつも、さくさくと砂を踏んで海岸
へ出ると、そこにひろがる光景を見て背筋に電流が走った。

 黄金色に静かに輝く東シナ海を背景に、真っ白い砂浜の上を、いくつもの黒い影が漂っ
ている。そこだけ空間が固定されたように、ぴたっと空中に静止して動かない。しかしよ
く見ると、黒い翅を小刻みに動かし、滞空飛翔しているのが分かる。山奥の渓流に生まれ、
亜熱帯の森を飛び回るトンボが、早朝の波打ち際を漂う風景の不思議。
 竿を手に、一番近くを漂う影に向かって歩き出す。足音に驚いた大小のヤドカリが、歩
くたびにころころと転がる。影は、その真下に入っても少しも警戒する様子もなく、頭上
を静かに漂っている。そろそろと竿を伸ばし、影のすぐ下にネットを近づける。ひゅんと
いう軽い音とともに、青空から黒い影が消えた。
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by brunneus | 2013-03-01 13:24 | Comments(0)
2013年 02月 21日

よけいなおせわ

昨年出版されたトンボ図鑑の第二版が出るようだ。

個人的にも、いくつかちょっと気になるページがあったので、それがどこまで改善されているか、チェックしてみたい。

初版で気になった点。文章の誤記は別として、画像について。

・ネアカヨシヤンマ雄の標本画像の青みが強い。
・トビイロヤンマ雌雄の標本画像の色調が薄い。
・ヤブヤンマ雄の標本画像の青みが強い
・オオギンヤンマ雌雄の標本の状態が悪い。
(死後時間が経っているためか、複眼の擬瞳孔が消えている。標本差し替えは難しいかもしれないが、、)
・サナエトンボ科扉のメガネサナエ標本画像の胴体がややアンダー気味で、青みが強い
・コオニヤンマの雌雄標本画像の複眼がアンダー気味。交尾画像のピントが甘い。
・オナガサナエ雌雄の標本画像の青みが強い
・モイワサナエのページの標本画像の青みが強い
・ヒメクロサナエ雄の標本画像の青みが強い
・オジロサナエ雄の標本画像の青みが強い
・タイワンオジロサナエ雄の標本画像の青みが強い
・チビサナエ沖縄個体群雌雄の標本画像の赤みが強い
・ミヤマサナエ雄の標本画像の青みが強い。若干緑寄りか。
・ホンサナエ雄の標本画像の青みが強い。若干緑寄りか。
・ヤマサナエ雄の標本画像の青みが強い。
・タイワンウチワヤンマの交尾画像の画質が悪い。
・オニヤンマ雄の標本画像の青みが強い
・ミナミヤンマ科扉のイリオモテミナミヤンマの翅と脚が、恐らくコピー反転ペーストしたものと思われる。胴体に対して翅が短いか?
・オキナワミナミヤンマ雄の標本画像の腹部先端が黒い。恐らくレイヤー調整ミスと思われる。
・ミナミヤンマ地域個体変異のページ、奄美個体群の雄標本画像の青みが強い。全体に、胴体に対して翅が短いか?
・ミナミヤンマ科全体的に、標本画像の複眼の彩度を上げすぎているので不自然で、浮いて見える。
・ミナミヤマトンボ科扉のサキシマヤマトンボ標本画像の複眼の色調が不自然。乾燥標本をデジタル処理したか?
・サキシマヤマトンボ雌雄の標本画像の青みが強い。
・リュウキュウトンボ雄の標本画像の腹部先端が黒い。恐らくレイヤー調整ミスと思われる。
 また、翅の部分を合成したか?
(沖縄のトンボ図鑑と翅の色が明らかに異なる)
・オオヤマトンボ日本本土個体群の雌雄標本画像の青みが強い。
・コヤマトンボ北海道個体群の雌雄標本画像の青みが強い。
・マユタテアカネ産卵画像の解像度が粗い。
・マイコアカネ雄の標本画像がやや青みが強い。
・コシアキトンボ雄の標本画像の色調が薄い。
・コシアキトンボ雌の標本画像の赤みがやや強いか。
・ベニヒメトンボ雌雄の標本画像の青みが強い。
・タイワンシオヤトンボ雌雄の標本画像の青みがやや強い。
・ベッコウトンボの標本画像が全体的に薄い。


大体こんな所だろうか。
標本画像の青みが強いものが多いのが気になるが、色調の偏りは特に透明な翅のトンボで目立つ。
この場合、画像処理ソフトで翅の部分を選択し、翅の彩度を下げることで解決できるような気がする。
しかし、こういう色調の補正はモニター上では簡単に出来ても、
印刷のインクや印刷機によって変わることも多いと思うので、調整は非常に難しいのだろう。

こういう、非意図的な色調の偏りの他に、
もし意図的に彩度補正や、異なる個体や同じ個体のパーツを合成したのであれば、個人的な趣向としてはあまり好みではない。
解りやすく、美しくするために人為的に手を加えるよりも、
多少汚れや欠損があっても、(できれば完品が良いが)ありのままの状態を提示したほうが、自然を正しく理解する、という図鑑の性質に合致していると思うからだ。
基本的に図鑑を読む人は、その情報を全面的に信頼する。
しかし、そこに画像修正という作為があると、その信頼する気持ちが揺らいでしまう。アイドルやタレントのグラビアや宣材写真のように。

図鑑はノンフィクションであってほしい。
写真で言えば報道写真であってほしい。


色々書いてしまったが、このトンボ図鑑を作った人々の情熱と苦労は想像するにあまりあるし、
個人的にも思い入れがある図鑑なので、ついつい好みというか、感情が入ってしまうのだ。

書店で第二版を手に取るのが楽しみだ。
改善の度合いによっては、購入も考えている。
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by brunneus | 2013-02-21 22:05 | Comments(10)
2012年 04月 29日

やっと初物

前回の失敗から約一週間。

再び晴れ間が訪れたわけだが、一度失敗を経験すると、ポイントの選定に慎重になってしまう。
この前は姿も見なかった、ということは、ポイントでの時期がまだ早かったためだ。
そこで今回は、青梅より多少は温暖と思われる八王子の産地に行ってみることにした。

とは言うものの、旧知の産地はポイント力が低下してしまったために、期待はできない。
かと言って、もう一つの産地は人が多すぎる。休日ともなれば尚更だ。
そこで、その近くにある、まだ訪れたことのない谷へ入ってみることにした。

歩くこと30分。
道すがら、さっそく羽化したばかりのトンボが目に飛び込んでくる。

ヒメクロサナエ雌
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アサヒナカワトンボ(多分)雌
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そして道が大きな広場に出た時、目の前を懐かしいシルエットが通過していった。

「あっ。ムカシトンボ」

まるでスローモーションのように、地面すれすれをのんびりと飛んでいる。
見ていると、二匹が追い合う姿や、何を思ったのか顔面めがけて突進してくる個体も。
ムカシトンボたちは、こちらのことなどまるで気にも留めない様子で
春の日差しを全身に浴びながら思い思いのコースで広場を飛び回っていた。

ムカシトンボ雄:体長48mm
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はたして本当に青梅よりも八王子が温暖なのかは定かではない。
しかし、つい一週間前の青梅の閑散とした風景が嘘のような、充実した八王子の産地だった。
今日の選択は間違っていなかったようだ。

晴天の休日とあって写真屋も多かったが、ネットを手にした採集屋も多く、
特に若者が目立っていたことが印象的だった。
話してみると皆良い人たちばかりで、有益な情報交換もできた。
彼らの将来が楽しみだ。

ムカシトンボも、撮る人も、採る人も、思い思いに勝手気ままに過ごす、
夢のような一日。
シーズンのスタートとしては上出来だ。
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by brunneus | 2012-04-29 02:22 | Comments(4)
2011年 07月 26日

定点観測

JR国立駅から南に伸びる大学通り。
駅から一橋大学の先までの数百メートルほどを毎日歩いている。

この区間は商店街で、歩道にはタイルが敷かれ、
買い物客が店を物色しながら、
のんびり歩くのには都合の良いつくりになっている。
西友があり、吉野家があり、マックがあり、スタバがあり、エクセルがあり、
本屋があり、お得意相手のブティックや床屋がある。
休日には買い物客で若干賑わう。
まあ、どこにでもある普通の商店街だ。

引っ越してきて何年か経つが、
毎日この通りを歩くうち、他の街と違うことに気付いた。

それはムシが多いということ。
正確には、昆虫相が豊かである、ということになる。

これまでに大学通りの数百メートルの間に見かけた昆虫をざっと挙げてみる。

○チョウ
クロアゲハ
カラスアゲハ
ナミアゲハ
モンシロチョウ
キタキチョウ
ヤマトシジミ
アカボシゴマダラ
アサギマダラ
ツマグロヒョウモン
イチモンジセセリ

○トンボ
オナガサナエ
オオシオカラトンボ
アキアカネ
コシアキトンボ
ウスバキトンボ

○バッタ、キリギリス
セスジツユムシ
クビキリギス
クサキリ
ハヤシノウマオイ
ヤブキリ
アオマツムシ
エンマコオロギ
コカマキリ
ハラビロカマキリ

○セミ
ニイニイゼミ
ミンミンゼミ
アブラゼミ
ツクツクボウシ
ヒグラシ

○コウチュウ
カナブン
シロテンハナムグリ
カブトムシ
コクワガタ
ノコギリクワガタ
コフキコガネ
アオドウガネ
スジコガネ
セマダラコガネ
オオキイロコガネ
ビロウドコガネ
クワカミキリ
ウバタマムシ
アオオサムシ

はっきりと種を認識できたものだけでも、こんな感じだろうか。
これらは、昆虫を探す、という目的で発見したものではなく、
あくまで通勤時に「普通に歩いて」見かけたものだ。
他にも、同定に自信がないチョウやガ、
殆ど認識できていないハチ、アブ、ハエ、アリなどを含めると、
ちゃんと調べれば、恐らくこの数十倍の数になるだろう。

しかし、ここで言いたいのは数ではなく、その内容だ。

注目種は、
オナガサナエ、カブトムシ、ノコギリクワガタ、オオキイロコガネ、
クワカミキリ、ウバタマムシ、ヤブキリ、ハヤシノウマオイ。

これらの昆虫は、普通に考えれば、
東京の平地の駅前商店街に出現することは考えられないものばかりだ。
特徴としては、状態の良い森林に棲むものが多い、ということが言える。

国立駅周辺で森林といえば、一橋大学のキャンパス。
武蔵野の面影を僅かに残した林が広がるが、それほど広い面積ではない。

注目種の中で、
オオキイロコガネとノコギリクワガタの発生源としては、このエリアが考えられるが、
実際には、大学から離れた駅寄りの商店の店先に落ちていることが多い。
通りには並木があるが樹種はサクラとイチョウで、これらの昆虫とはあまり縁がない木だ。

彼らはどこで発生しているのだろうか。

ウバタマムシは、大学脇の駐輪場のアカマツ。
オナガサナエは恐らく未熟個体で、遥か南の多摩川からの飛来。
カブトムシやヤブキリ、ハヤシノウマオイは郊外の里山の昆虫というイメージで、街中ではめったに見られないが、
比較的小さな環境でも世代を維持できるので、まあ納得はできる。
クワカミキリは一回しか確認していない。


そして昨日。
今年も大学通り西側、ツルハドラッグの前でノコギリクワガタの雌を拾った。
そして今日は東側のモスバーガーの前で大きな雄の死骸を見た。

未だに彼らの発生源のてががりは掴めず、
ただ目の前に落ちている、という事実を受け入れるしかない。

しかし、日常の生活空間のすぐそばに、
奥深い異次元の自然世界が潜んでいるようで、
そう考えると楽しくなってくる。
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by brunneus | 2011-07-26 08:57 | Comments(0)