トンボの日々

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2011年 02月 19日

ファーストコンタクト・その2

ファーストコンタクト:リュウキュウツヤハナムグリ

1997年の真夏。
沖縄本島南部、那覇市の外れの首里城が建つ丘。
初めて訪れた沖縄で、あまりの日差しに朦朧としながら、
友人と住宅街の石畳の坂道を歩く。

センダンの植え込みの下を通ると、
幹からバサバサと夥しいクマゼミが飛び散る。
白く眩しい空き地をひらひらと風に流される、極彩色のカバマダラ。
家の屋根からは、今まで聴いたこともない、
独特の節回しのシロガシラのコミカルな囀り。

風景のどこを切り取っても、東京では見たことも聴いたこともない
生き物で溢れ、次々と現れる彼らの姿形にいちいち釘づけになり、
折からの熱波もあり、頭の芯がぼうっとしてくる。

さっきから視界の隅を掠める、緑色の輝きを残して飛ぶ甲虫が気になってしかたない。
内地でいうところのカナブンに似ているが、、、。
縦横に飛ぶので確認するすべもないが、ある時、
足元で緑色に光る物を見つけた。
摘み上げると、それはハナムグリだったが、内地で見られるものとは
全く異なり、ハナムグリに付き物の白い斑模様が無い。
地色ものっぺりとした明るい金緑色で、
ハナムグリとカナブンを足して二で割ったような姿に、
南を強く感じた。

以来、沖縄の強力な病に感染してしまってからは
訪れたその折々でこの金緑色の甲虫を目にするが、
すっかり目に馴染んだ今でも、
自分のなかでリュウキュウツヤハナムグリは、亜熱帯のけだるい夏を
象徴する昆虫となっている。

標本にしても決して色褪せないメタリックグリーンの中に、
灼熱の森を投影する。
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by brunneus | 2011-02-19 22:43 | Comments(0)
2011年 02月 07日

ファーストコンタクト・その1

繁忙期真っ只中。
体力的にはキツくはないが、
どうもブログを更新する精神的余裕がない。
一ヶ月更新がないと広告記事になってしまうので、
強引に文章を書く。


人であれなんであれ、出会ってから時間が経つと、
慣れから来る倦怠感はどうしても防げない。

そこで時々気持ちをリセットするのだが、
その方法のひとつに、
「初めて出会った瞬間を思い出す」
ということを良くやる。

例えばトンボ。
オフシーズンはどうしても標本を眺める時間が増えてくるのだが、
だんだんそれも飽きてくる。

そんな時、そのトンボに初めて出会った時
「ファーストコンタクト」のことを思い出してみるのだ。


ファーストコンタクトその1:マルタンヤンマ

1999年8月。高知県中村市(当時)の広大な湿地。
新宿から夜行バスにゆられて、延々十数時間の長旅の末に、
ようやくたどり着いた。

太陽はもうすぐ向かいの丘に沈むところだ。
急速に辺りから光が失われ、全天が茜色を帯びると同時に、
その中にぽつ、ぽつと小さな点が舞いはじめた。ヤンマだ。

自作のチープで貧弱な竿とネットを出し、緊張に震える両手で握る。
空を飛ぶヤンマは数多いのだが、この短い竿ではとても届きそうにない。
時々、何かの拍子でひゅっと降下してくる個体がいるが、
素早く全く反応できない。

しびれを切らし、少しでも低く飛ぶヤンマを目掛けて目茶苦茶に
竿を振り回すが、ネットが空を切る音が虚しく響く。

しかしチャンスは巡ってきた。
夜の闇が地面から立ちのぼり、風景全部を飲み込もうとする時間。
僅かに明るい空の下低くを、
赤茶色のヤンマが往復しているのを見つけた。

「マルタンヤンマだ」

泥にまみれた畦道を走り、ヤンマの往復コースの真下に入る。
見上げると、なんとか届きそうだ。
ヤンマが頭上を通過する瞬間、
精一杯背伸びをして竿を振るが、僅かな所で空振り。
しかしまだヤンマは飛んでいる。
次が最後のチャンスかもしれない。
再び頭上。

呼吸が止まりそうなほど、無理な態勢で、
竿を思い切り振る。
「かさっ」
頭の上で、手応えがあった。
急いで竿を地面に伏せ、中を確認する。
手の中で暴れる乾いた感触。

全身をワインレッドに染めた、マルタンヤンマの複眼が、
闇の中できらりと光った。
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by brunneus | 2011-02-07 14:23 | Comments(4)