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2015年 12月 29日

風景・その1

フィールドから遠く離れてしまったせいか、ふとした時に鮮やかに記憶が甦る瞬間がある。
それはトンボにまつわる記憶ではなく、行き帰りの移動や、休憩中に見た風景の記憶。


◎12時30分空港発名護行き高速バス/マリンブルーの女の子


白く眩しい滑走路に着地したボーイング727に、静かに搭乗用ゲートが接続する。
機内の乗客が、これから始まるであろう非日常の期待に俄に色めき立つ。冷静を装う自分も、心は既
に亜熱帯のジャングルへと飛び立っている。
永遠にも思える手荷物受け取りの順番待ちをようやく終え、空港の外へ飛び出すと、熱気と油臭い風
が全身にねっとりと絡み付く。熱気のせいか、大荷物を担いでいるせいか、歩いて2分のはずの111
番の高速バス停までが遠く感じる。

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空港のタコライス屋で腹ごしらえをしようと思ったのだが、あそこは料理が出てくるのが遅い。壁に
那覇の古い航空写真が貼ってあるタコライス屋だ。じわじわと迫りくる空腹感に、やはり腹ごしらえ
をしてくるべきだったか、と少し後悔した。

「すいませーん」

突然背中から声をかけられ、驚いて振り返ると、小柄な女の子が笑みを浮かべて立っていた。マリン
ブルーのタンクトップに、洗いざらしの褐色の長髪を後ろに束ね、顔にはボブ・ディランのようなサ
ングラス。

「名護行きはこのバスでいいんですかあー?」

まだバスは来ていない。

「ああ、、はい、、大丈夫だと思いますけど」

随分人間と話していないみたいな受け答えになっている。

「そうですか!良かったー」

そう言うと女の子は、満足そうに空の彼方を見つめた。
歳は18、9というところだろうか。空港から出てきたというのに、荷物らしい物は何も身に付けてい
ない。名護行きのバスを訊く、ということは、沖縄の人間ではないのだろうか。
しかし、脳天の先から響くような明るい声には陰らしきものは微塵も感じられず、むしろ亜熱帯の空
気がよく似合う。

やがて重苦しい音を響かせ、バスがやってきた。大荷物につかえながら冷房が効きすぎた車内に乗り
込み、シートに身を埋める。窓の外は白く眩しい光に満ちている。

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マリンブルーの女の子を探すと、斜め前方の座席にいるのを見つけた。タンクトップからすらりと伸
びる白い腕から視線を離せない。
彼女はどこで降りるのだろうか。軽装なところからすると、観光ではなく、沖縄の親戚にでも会いに
ゆくのだろうか。


高速バスの停留所で降り、「ついたよー」と能天気な声で電話をする。するとほどなく同じくマリン
ブルーのワンピースを着た、まるまると太ったオバアが迎えに来るのだ。そしてバス停からすぐの家
の涼しげな暗がりに消えて行く。家の中では、マリンブルーのシャツを着たオバアの息子が冷えたサ
ンピン茶で出迎える。あるいはマリンブルーのスカートを履いた幼なじみが待っているのかも知れな
い。


そんなことを想像しているうちに、意識がだんだん遠退いてゆく。

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急に辺りが静かになったので目を開けると、バスは終点の名護に到着していた。マリンブルーの女の
子を探すが、車内には自分以外、誰もいない。
エンジンが止まり、静まり返る薄暗いバスの中と、白く眩しく輝く名護の街。すぐに席を立つ気にな
れず、シートに深く身を埋めて、目を閉じた。

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by brunneus | 2015-12-29 00:42 | つぶやき | Comments(0)
2015年 12月 25日

頂き物

先日。

トンボ仲間より、羽化したばかりのカラカネトンボを頂いた。ケースを開けてみると、嬉しいことにま
だ未撮影の雌個体だった。

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カラカネトンボ 未熟雌

成熟個体の翅は透明だが、未熟期ならではの橙色が美しい。

北方系であるこのトンボは寒冷地の池沼に棲息するが、関東では群馬北部まで行かないと見られない。
この産地はオオトラフトンボの産地でもあるのだが、近年オオトラフの状況が芳しくないので、足が遠
のいている。今年の初夏に同好Aさんと長野各地を探しまわったが、結局姿を見ずじまいだった。
群馬では個体数が多いこともあり、「オオトラフのついでに採るトンボ」という印象だったが、今では
その立場が逆転してしまったようだ。実際、オオトラフに比べ、関東甲信では分布域は遥かに限定され
ていように思う。

来年は、カラカネトンボに的を絞って、じっくり狙ってみよう。
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by brunneus | 2015-12-25 01:51 | つぶやき | Comments(2)
2015年 12月 10日

秋のある日。
採集したキトンボを撮影していて、ふとある部分が気になった。それは脚の先端の爪。

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よく見てみると、爪の中程からトゲが派生し、二股状になっているのだ。この個体は雌だが、雄も確
認してみると、同じような形状。それでは、と他のトンボも見てみる。

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アキアカネ雌。キトンボほどではないが、爪に突起が認められる。他は?

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ヒメアカネ雄。やはり。科を変えてみると、、。

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オオルリボシヤンマ雌。

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ミルンヤンマ雄。ヤンマ科にも、発達は弱いが突起があることがわかった。

トンボの爪にこういう突起があることを、始めてから15年目にして初めて知った。全ての種を調べ
てみたわけではないが、雌雄よりも、どうもグループによる発達の差のほうが大きいようだ。

その発達の差異の理由はなんだろう?
飛ぶことが多いヤンマ科と、静止が主なトンボ科、という習性、行動面の差異なのだろうか?

シーズンオフの暇つぶしにはもってこいのテーマだ。
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by brunneus | 2015-12-10 23:22 | つぶやき | Comments(4)