トンボの日々

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2016年 10月 25日

破調の美

今年最後に手にしたヤンマ2種。

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左:ルリボシヤンマ雌 右:ミルンヤンマ雄

どちらのヤンマもいかにもシーズン末期という雰囲気で、渋く擦れた良い一品だ。
様々な見方があるとは思うが、個人的にはトンボの標本は一種の工芸品として捉えている。自然物であ
るにも関わらず、工芸品というのもおかしな話ではあるが、、。
標本市場(そんなものがあるとすれば)では、翅や脚の欠損はB級品扱いになるが、そういう価値観に
は全く興味がない。学術的には必要なことなのかもしれないが、工芸品としては面白くない。

美術工芸界では「破調の美」という言葉がある。完全なもの、整ったものよりも、歪んだり崩れたりし
たものを善しとする美意識だが、老熟して擦れた標本は、まさにそれに当てはまると思う。身体の各部
の欠損や色のくすみは、そのトンボが生きて活動した過程の必然であり、その破調は、その個体の物語
を内包する。その欠損のひとつひとつが観る者の想像力を膨らませ、標本を味わい深いものにしている
のだ。
成熟したばかりの新鮮な個体が持つ美しさは、工芸品的な美を持つ老熟個体とは全くの別物だと思う。

深まる秋は、老熟したトンボが持つ深みをじっくり味わう季節。もうしばらく、その破調の美しさを楽
しめるだろう。






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by brunneus | 2016-10-25 00:20 | 東京 | Comments(0)
2016年 10月 20日

寒さに耐える

先日、撮りためたトンボの画像をチェックしていると、当然あると思っていたオオアオイトトンボ雌の
画像が無いことに気がついた。

ルリボシヤンマの池に行くと日向に多数の個体が集結していたので、その中から雌を選んで撮影用に摘
まんで帰る。

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オオアオイトトンボ雌

オオアオイトトンボは都会派のトンボだ。好き好んで街中で暮らしているわけではなく、産卵に不可欠
な、水面に張り出した木立がある池、つまり薄暗い池を棲息地としているからだ。
狭い土地に樹木と池を詰め込む都市部の公園は、必然的に池面に日陰ができ、このトンボの棲息環境と
なる。産卵方法は異なるが、木陰を好むクロスジギンヤンマやヤブヤンマが都市部に進出しているのも、
同じ理由だと思う。

水面に近い場所で産卵する多くのトンボの雌にとって、日増しに気温が下がるこの時期は苛酷だ。産卵
しているうちに、体温が下がって飛び立てなくなるものもいるという。
いっぽうのオオアオイトトンボは寒さに強いらしく、他のトンボが殆んど活動しないような寒い日にも
活発に飛び回っている。しかも、このトンボの生殖活動は夕方なので、さらに気温が低いはずだ。
日が差し込む僅かな時間に日向に集まって一心不乱に摂食しているのは、寒い夕方の活動に備えて、生
殖に必要なエネルギーを体に溜め込んでいるのだろう。

キトンボやヒメアカネも耐寒性のあるトンボで有名だが、さて、今年はどちらが遅くまで生き残ってい
るのだろうか。






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by brunneus | 2016-10-20 10:10 | 東京 | Comments(0)
2016年 10月 15日

陽炎

先月末の長野でのこと。
キトンボの産卵が一段落したので、池の畔の木陰で休んでいると、すぐ近くでチッチゼミの鳴く音がし
た。音は背後から響いている。視線を走らせてみると、すぐ後ろの草の上に黒い虫影が。

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チッチゼミ雄
奄美以北では最も小型になる北方系のセミで、横から見ると後翅の縁が上に飛び出るのが大きな特徴。

チッチゼミはモズの高鳴きと共に、秋の高原になくてはならない音の風景だが、いつもその音は、樹上
や遠くで陽炎のように響いて掴み所がない。
たまに近い距離で鳴いていて、本体を突き止めようと梢を凝視するが、音源に近づいたと思えば遠ざか
り、移動したかと思えばまた元の位置から響く。「ジッジッジッ」または「ビッビッビッ」(チッチッとは決
して聞こえない)という脳天に突き刺さる音は、不規則に空間を伝播するのだ。近付けば遠ざかる、まさ
に陽炎。

勝手なイメージだが、ハルゼミ類、エゾゼミ類、ヒグラシ類とこのセミは、基本的に木の高い位置で鳴
くので、捕まえるのが難しいグループだ。
調べてみると、チッチゼミは時々地上の草などで鳴くこともあるらしいが、実際にその状態を見るのは
初めて。次に見られるのはいつになるか分からないので、その姿をしっかり目に焼き付けた。

長野の秋は足早に過ぎ去る。今頃は虫の音も絶え、静かな風景が広がっていることだろう。






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by brunneus | 2016-10-15 11:30 | 長野 | Comments(0)
2016年 10月 12日

彩度

ここ最近撮影したアカトンボ。

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上左:コノシメトンボ雄 上右:ミヤマアカネ雄 下左:マイコアカネ雄 下右:キトンボ雄

アカトンボ類の雄の撮影は何かと気を使う。
「赤トンボ」たる雄の鮮やかな赤やオレンジの色彩は、生時、しかも活発に活動している状態の時の色で、
死後や低温時では褐色に変色してしまう。この時期、夕方になり、気温が下がると野外で見かける個体
はみな茶色。採集後、一時保管のために冷蔵庫に入れた個体も、同じ状態となる。
上の写真は、そんな個体を温めて、体色の彩度を復活させたもの。

昼夜で変化するヤブヤンマの複眼、やはり温度で変化するマダラヤンマ雄の腹背青色斑など、状態によ
り色彩が変わるトンボはいくつかある。いつでも撮影できる種類に比べ、これらのトンボは一手間かか
るので面倒だ。
今年は幸か不幸か、悪天続きでフィールドに出る回数が激減しているので、これらアカトンボの撮影に
もじっくり向き合えている。

まだ撮影の出来には満足はしていないので、もうしばらく、アカトンボたちと戯れてみようと思う。








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by brunneus | 2016-10-12 17:17 | つぶやき | Comments(0)
2016年 10月 09日

足元の憧れ

ある池の畔でルリボシヤンマを待っていると、足元でうごめく小さなハエの動きが気になった。

少し歩くと立ち止まって前脚をうねうねと動かす。そしてまた少し歩いてうねうね、、。
直感が働き、カメラで捉えた像を拡大してみると、、、

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ミナミカマバエ。

前脚がカマキリの鎌のように変形した異形のハエ。以前、何かの図鑑で見かけて、その造形の珍妙さに
惚れ込んだ虫だ。
「ミナミ」という名前から、てっきり熱帯や亜熱帯のジャングルに潜む珍虫だと思い込んでいたが、ま
さか憧れの虫が、関東南部のどこにでもあるような池で見られるとは思っていなかった。

よく見ると、前脚だけでなく、顔もカマキリそっくり。
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そして、カマキリと同じように前脚を使って獲物を狩る。
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「前脚うねうね」は、どうやら同じ仲間に対しての、何かしらのアピールのようだ。
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カゲロウのグループに属するカマキリモドキといい、このミナミカマバエといい、カマキリと縁遠い虫
がお互いに似通った造形になるのが非常に面白い。前脚が鎌になるのは合理的だが、顔面が逆三角形に
なるのは、どういう意味があるのだろう。

ルリボシヤンマのことなどすっかり忘れて、ミナミカマバエの観察に夢中になってしまった。

この珍妙なハエは果たして関東南部では普通種なのか?
水辺を訪れた際には、足元に気をつけてみよう。







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by brunneus | 2016-10-09 00:28 | 埼玉 | Comments(0)
2016年 10月 06日

秋のゲーム

秋は、山沿いを放浪しながら世代を繋ぐルリボシヤンマを追いかける季節。

3日前。
朝から久々に日射しが降り注いだので、仕事前の短時間、目をつけておいた場所に行ってみた。
駅から徒歩圏内なので、もしルリボシがいれば、気軽に通えるポイントになりそうだ。

ポイントは貧相な池だが、オオアオイトトンボやマユタテアカネが静かに飛び交う、典型的なルリボシ
的環境。
待つことしばし。上空から突然灰色のヤンマが舞い降りてきて、池を一周して林へ。あれはルリボシ雄
だ。まずは飛来を確認して一歩前進。
そしてその30分後、再び灰色のヤンマが飛来。アシの根元でホバリングを始めた。雌に違いない。ヤン
マはアシの根元に着地し、産卵するかに見えたが、ついっと飛び上がり、足元に真っ直ぐ向かってきた。
咄嗟にネットを降り下ろすと、手応えがあった。

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ルリボシヤンマ雌

直前に出現情報を掴んで訪れても、簡単に期待を裏切ってくれるルリボシヤンマ。このヤンマの探索
は、神出鬼没な獲物をハントするゲームのようで、楽しい。昨年は都内近郊では出会えなかったが、
今年は当たりだったようだ。

まだ少しシーズンは残っているので、仕事帰りにでも行ってみよう。







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by brunneus | 2016-10-06 10:36 | 東京 | Comments(0)
2016年 10月 02日

終わりよければ

長野のオオルリボシポイントにキトンボが多産するのを知ったのは、確か2年前。今年はオオルリボシ
は芳しくなかったが、キトンボはどうだろう。
秋の長雨の晴れ間、思い切って訪れてみた。

現地到着は午前10時。
池の畔に立ち、竿の準備をしていると、さっそくオレンジ色の連結体が足元の水面を打つ。

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このペアを皮切りに、正午過ぎにかけて一帯の池は、キトンボ産卵のお祭り騒ぎとなった。
撮影はできなかったが、キトンボ雄とネキトンボ雌の組み合わせのペアもふたつ混じっていた。このポ
イントではネキトンボを見たことがない。どこに潜んでいたのだろう。
異種のペアを良く観察すると、正常なキトンボのペアのように、一度打水してから大きく身体を前方に
振る、という行動をしている。しかしネキトンボの産卵は単純な打水のはずだ。もちろん異種のペアで
は、ネキトンボの方は全くやる気がなく、雄に振り回されているだけ。ということは、「打水してから
身体を前方に振る」というキトンボの一連の産卵動作は、雌だけではなく、雄もはっきりと意識して行
っているのだろうか、、。

そんなことを考えているうちに午後になりキトンボ産卵は下火に。時々飛来する雌が、ライバルが減っ
た雄の警護飛翔付きの単独産卵に切り替えるようになっていた。

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安物のコンデジでもじっくりと撮影できるほどの個体数。
関東地方の池でも、かつては至る所でこのような光景が繰り広げられていたのだろう。

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この日の天候は不安定で、ちょうどキトンボの産卵時間だけ日差しが出る、という幸運だった。
前回殆ど姿が見られなかったオオルリボシヤンマ雌も、今回は数頭の産卵が見られ、ここでは偶産種で
あるマダラヤンマを、今回も見ることができた。

撮影に不満で撮り直そうと思っていた、真紅に染まるコノシメトンボ雄を手にしつつ、早めに帰宅。
今年の長野は不作だったが、雄大な風景に抱かれてトンボと戯れる素晴らしい一日を、最後に過ごせて
非常に満足。終わり良ければ全て良し。

残り僅かなシーズンの日々を、地元のトンボを静かに観察して終わる心の準備ができた。







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by brunneus | 2016-10-02 01:13 | 長野 | Comments(0)