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トンボの日々

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2011年 03月 08日

ファーストコンタクト・その3

山梨県の北端部は、大部分が八ヶ岳の広大な裾野で占められている。

標高は1000mから1500m。
カラマツを主体とした冷涼な森と牧場がどこまでも続き、
その風景と気候は北海道を彷彿とさせる。
小さい頃、家族でよくこの八ヶ岳南麓に四季を通じて訪れていた。

新宿から特急あずさに乗って、乗り物酔いに朦朧としながら
気が付くと小淵沢。
頭上には夏雲を纏った権現岳と編笠山が高く聳え、
フラフラと列車から出ると、ピリッと冷たい空気と植物の香りに包まれ、
日常から遠く離れた高地に来たことを実感する。

陸橋を渡ったホームには、
ガリガリと騒々しいディーゼルエンジンが唸る小海線が
待っている。
小海線は八ヶ岳の南麓を緩やかにトラバースしながら進んで
徐々に高度を上げ、目的地の清里は標高1200mを越えている。

午前中に駅に着いたなら、ホームに降り立ったとたん、
背後のカラマツ林から
「ギィ・・・・」
という、エゾゼミの野太く、それでいて眠たそうな合唱が
耳に入ってくることになる。

エゾゼミを最初に見たときのことはもはや覚えていないが、
毎年夏の山梨旅行では、いつもエゾゼミとの出会いを期待していた。
東京の都心で生まれ育った身としては、セミといえば
アブラゼミで、北方系のこのセミの黒とオレンジ、黄色
を基調とした独特の配色は、非日常の夏の高原を
象徴した存在だった。

エゾゼミは不思議なセミだ。
「ギィ・・」
という声が頭上のカラマツの林から聞こえるが、
はるかな梢で鳴いているらしく、いくら目を凝らしてみても、
姿は全く見えない。
かと思うと、
何でもない道端にどういうわけかコロンと転がっていたりする。
摘み上げると焦っているのかいないのか、脚をゆっくりと動かしてもがく。
そして耳をつんざく「ギ・ギ・ギイイー!」という声。

今では八ヶ岳南麓へ行くことはなくなったが、
目の前にあるエゾゼミの標本を眺めるとき、
鮮やかに夏の高原の風景が瞼の裏に蘇ってくる。

by brunneus | 2011-03-08 15:40 | Comments(0)


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