2012年 11月 17日
かつて西表島を一人で訪れた時。 移動にはタクシーを使っていたのだが、単独の旅行者に気を使ったのか、 車中で女性の運転手が色々な話をしてくれた。 その中でも印象的だった話。 西表島にはリュウキュウイノシシという少し小ぶりなイノシシがいて、 今でも猟期にはよく捕られ、その野趣溢れる味は島の人々に好まれている。 リュウキュウイノシシの代表的な餌はドングリの実なのだが、ドングリの実りが悪い年は、 産仔数を少なくし、飢餓に陥らないように自らコントロールしているのだという。 そんな年はリュウキュウイノシシの個体数は減るが、ドングリの結実状況が良くなるとまた増える。 つまり、リュウキュウイノシシたちは、ドングリという植物の実に自分たちの運命を託しているのだ。 西表島という、大型哺乳類から見ればほんの小さな島に棲むリュウキュウイノシシの、 ドングリと狩猟による個体数の増減の関係はどういったものなのだろう。 個体数が少ない年に猟を続けても大丈夫なのかと心配になるが、 島からイノシシは絶滅するようなことはない。 ちなみに運転手の旦那さんも、趣味でイノシシを捕って食べているという。 トンボを採るという行為は、個人的には、狩猟や漁、そして収穫に似ていると思う。 季節の山菜や茸、旬の魚や山の幸。異なるのは「食べる」という行為の有無だけだ。 日本は四季があるとは言え、春が遅かったり、冷夏だったり、毎年微妙にその性質は異なり、 それに合わせて生き物たちの出現の状況も影響を受けてくる。 そして「今年はエゾトンボが少ない、、」とか「今年はネアカヨシヤンマが多かった!」 と一喜一憂するのだ。 そんな一喜一憂をしながら、その季節ごとに出てくる旬のトンボとの出会いや格闘を楽しみにし、 結局はそれを通して四季を実感しているのかも知れない。 西表島のドングリやイノシシも、そういった季節の微妙な揺らぎ、そして狩猟の影響を受けつつも、 大きな視点から見れば、個体数は安定している。周りを海に隔絶された環境であるにも関わらず、だ。 イノシシやトンボを含め、生き物はミクロな個体数の増減を繰り返しながらも、 総体としては、バランスを取って種というものを維持しているのだと思う。 しかし、中には種として衰退の局面に入っているものもある。 その理由としては移動力が弱いこと、環境の変化に弱いことなどが挙げられるが、 衰退の坂を転がり出した種というのは、採集しようが、保護しようが、いずれ絶滅する運命にあると思う。 たとえそれが人間活動が原因だとしても、それは今まで地球に起きた様々な環境の変化と何ら変わりはない。 でないと、地球上は無数の生き物で飽和状態になってしまう。 永遠に存続する種というのは有り得ない。 要は、地球という大きな箱に入る量は決まっていて、その内訳が常に変化しているに過ぎないのだ。 では人間(ヒト)の将来は、、? という疑問は、自分が人間(ヒト)なので分からない。 一個体としては、末永く平和に、永遠に存続してほしいという願いはある。 地球がヒトだけになってしまっても困るが、、。 話を戻すと、採集程度のインパクトで数を減らしてしまうような生き物は、 採集しようが、保護しようがしまいが、たとえそれが環境破壊の結果であったにせよ、 そう遠くない将来に絶滅してしまう運命にある。 しかしそれ以外の大多数の生き物は、季節の揺らぎの影響で数を増減させることはあっても、 採集程度のインパクトで絶滅するようなことはない。 逆に、トンボのような有翅昆虫は、その地域で絶滅したと思われていても、例えば神奈川県の アオヤンマのように、どこからともなく新たな個体が飛来することもある。 冒頭で「狩猟と収穫」のことを書いたが、 例えば西表島の猟師は、リュウキュウイノシシが捕れなくても飢えることはない。 では何故捕るか? それは、(イノシシを捕ることが)「楽しい」し(食べることが)「好き」だからだ。 山へ入り、山菜やキノコを採ることも同じ。 彼等は自分の欲求に従って行動しているに過ぎないのだ。 そして、それは昆虫採集も同じことだと思う。 昆虫採集という行為にたいして 「自己の欲求のために採集するのは慎みましょう」という意見をよく見かけるが、それは 「自己の欲求のためにイノシシや山菜をとるのは慎みましょう」と言っているのと同じだ。 自分は、自己の欲求のために採集を慎まなければいけない理由が分からない。 「楽しく」「好き」でやっていることに、学術的な意味付けは必要ない。 もちろん、「楽しく」「好き」だからと言って、 例えばベッコウトンボやオガサワラトンボを採るつもりはない。そこには様々なリスクを伴うからだ。 社会に生きる大部分の人々がそうであるように、リスクを侵してまで自己の欲求を実現することはない。 社会生活を送っている人々は、常にリスクと欲求の狭間に生きている。 トンボを採っている、ということを人に説明する時、 いつもどこかきまりの悪さが喉の奥に引っかかっていた。それが何であるかは分からない。 そこで取り繕うために、その場で色々理由を付け加えるのだが、どれも自信を持って言い切れないものだった。 そこで今回あれこれ考えたわけだが、そこで辿りついた答えは、 「そもそも理由なんて必要ない」というものだった。 ずいぶんシンプルな答えだが、それにはしっかりとした反証が必要に思える。 シーズンも終わったことだし、それについてもう少ししっかりと考えてみよう。
by brunneus
| 2012-11-17 01:57
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