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トンボの日々

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2013年 04月 12日

そろそろ南方遠征が視野に入り始めた。

亜熱帯でのスケジュールをあれこれ考えるうちに、いつしか意識はジャングルの上空を優雅に漂う、
ミナミヤンマ類へと傾く。
灼熱の地の象徴のようなこの仲間とのなれ初めは、幾度も書いているのでここでは触れない。

熱帯の地域を持たない日本だが、四国南部と九州南部以南にミナミヤンマの仲間は3種が分布する。
しかし視野を広げてみると、さらにその南、西はインドから東はボルネオまで、アジア南部に50
種近くも分布しているという。
当然、これらの地域には行ったことが無いので情報源は文献やウェブとなるのだが、いかんせんこ
の地域は昆虫の研究が遅れがちで(日本や欧米と比べると、という意味で)、欲しい情報に乏しい。
しかしそれがまた、この仲間のミステリアスな魅力に繋がっているのだと思う。

ミナミヤンマ類は雄よりも雌にその種独特の特徴が発現する。
昨年末の神奈川での展示で国外のこの仲間の標本を見て、雌の多様性に驚いたが、それを表現しよ
うにも手持ちの標本も写真もないのでもどかしかった。ウェブにはいくらかはあるが、それを無断
でここに貼付けるわけにもいかない。

そこで、仕方がないので10頭ほど描いてみた。(クリックで少し拡大)

夢_a0126535_0342622.jpg


ここに描いたのは全て雌個体のみ。種によっては情報が乏しいので、かなり描写が怪しくなっている。

番号1:Chlorogomphus risi (タイワンミナミヤンマ/翅斑拡大型)
番号2:Chlorogomphus risi (タイワンミナミヤンマ/翅斑縮小型)
番号3:Chlorogomphus usudai
番号4:Chlorogomphus brevistigma (ヒロバヤンマ)
番号5:Chlorogomphus nakamurai
番号6:Chlorogomphus sp
番号7:Chlorogomphus papilio (タイリクアゲハヤンマ)
番号8:Chlorogomphus suzukii (ホソミオニヤンマ)
番号9:Chlorogomphus shanicus
番号10:Chlorogomphus arooni

タイワンミナミヤンマは、イリオモテミナミヤンマと近縁、
ヒロバヤンマはオキナワミナミヤンマと近縁とされているらしい。

描いてみて気付いたのだが、ミナミヤンマ科には、形態的にいくつかの傾向があると思う。

一つは番号1から4の型。国内のカラスヤンマと同じような、「典型的ミナミヤンマ」型。
翅に出る斑紋のパターンも概ね統一感がある。

もう一つは、番号5から7、そして10の「特殊」型。
C.nakamuraiは、前後の翅に、アメイロトンボのような大きな不透明の乳白色の斑紋がある。
6番の不明種は、翅の幅や腹部の幅、斑紋が、微妙にミナミヤンマらしくない。
C.papilioは、その名の通りまるでアゲハチョウに擬態しているようだ。
C.arooniは、細い翅、太い腹部と、斑紋パターンは他には見あたらない。

さらに番号8、9。
翅も無色透明。幅もごく普通で、この中では最も「ミナミヤンマらしくない」特徴を持つ。
また、腹部が異様に細長くなる傾向がある。このグループは他にも何種類かいて、雄個体は身体に対し
て不釣り合いなほど腹部が細く、長くなるのが特徴。

もっとも、何をもって「ミナミヤンマらしさ」と言うのかは、基準が曖昧だ。国と地域によっても異な
るし、また個人によっても違ってくるだろう。科の模式種を「らしさ」として捉えるとすれば、それま
でなのだが、、。
日本に住んでいる人間からすると、やはり「ミナミヤンマらしさ」の基準はカラスヤンマ(ミナミヤン
マ)やイリオモテミナミヤンマ、オキナワミナミヤンマだろう。これはあくまで感覚的なものなので、
生物学的根拠はまったく無い。

しかし感覚的であるにせよ、ひとつの「基準」から周りを見渡し、他者と基準の間のギャップを知ると
き、自然界の奥深さを垣間見た気がする。
そこに「知ること」の面白さがあるように思う。

熱帯の密林の上を舞うまだ見ぬミナミヤンマ。いつかそれを手にする夢が叶う時は来るのだろうか。

by brunneus | 2013-04-12 01:31 | つぶやき | Comments(0)


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