トンボの日々

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2018年 07月 19日

遠い記憶・その3

国道沿いの食堂で遅い夕食を食べ、疲れ果てて宿に戻る。
蚊取り線香の煙が漂う薄暗い廊下を進み、部屋へ。即座にエアコンを点けると、重々しい音と共に埃臭
い風が額を撫でる。汗を滴らせながら、部屋の温度が下がるのをじっと待つ。

やがて送風口からの風が涼やかになると、一気に緊張が解け、同時に眠気が襲ってくる。しかしここで
眠るわけにはいかない。
戸外にある洗濯機にじっとりと湿った衣服を放り込みスイッチを入れると、懐中電灯を持ち、ビーチサ
ンダルを引っ掛けて、海岸を目指す。
気持ち良さげな歌声が響くスナック街を抜けると、潮騒の音だけが鳴る漆黒の世界。どこまでも続く真
っ黒な水面の遥か遠くに、ぽつんと島の灯り。時々近くで点滅するのは漁港の灯台。
真っ黒い異世界に踏み込む軽い恐怖をごまかしながら、ハマヒルガオの葉を踏みしめて、波打ち際へ。

波の音が近くなった所で懐中電灯を点ける。

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光の中に浮かび上がる、異形のカニの姿。ツノメガニだ。
ここで動きを止め、カニに光の輪を浴びせながら徐々に間合いを詰める。カニからは光の向こうの存在
は見えないようだ。さらに近付く。

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充分に射程距離になった所で、一気に押さえ込む。

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国内最大のスナガニ、ツノメガニ。甲幅はアカテガニほどだが、脚が長いので遥かに大きく見える。
暗闇の中では、さらにその巨大さが際立つ。
スナガニ科に限らず、砂浜に棲むカニやヤドカリの多くは夜行性だ。昼間に訪れても、彼等は穴深く潜
って出て来ない。何かの間違いで砂に出ていることもあるが、近付く前に猛スピードで逃げられてしま
う。
彼等に出会うには夜。視力に長けた彼等も、暗闇だとこちらの姿が見えず、容易に近付くことができる
のだ。
この接近法を知ってからは、夜の砂浜探索は、南方遠征のルーチンになりつつある。昼間のトンボが振
るわなくても、夜のカニたちは裏切らない。


空を見上げれば、恐ろしいほどの星で覆われている。時々、緑色の光の残像を残して消える流星。
防波堤の上でしばし宇宙とシンクロしてから、また黴臭い宿の部屋に戻る。






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by brunneus | 2018-07-19 00:07 | つぶやき | Comments(0)


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