ホソミモリトンボは、本州では高標高地の高層湿原に棲息している。このトンボに出会うためには、長
いアプローチを乗り越えることと、好天という条件がセットになる。
そんなわけで、なかなかホソミモリのために遠征する機会に恵まれなかったのだが、先日、ついに晴天
と休日が重なった。
しかし、麓が晴れていても、このトンボが飛ぶ標高に雲がかかっていれば成果は望めないので、最寄り
駅に着くまで安心は出来ない。
そして駅に到着。目指す山塊に怪しげな雲がないのを確認して、決行。
気温は低く、あたりはぴんと張りつめた初秋の空気に支配されている。カラマツの梢から時々響くヒガ
ラの呟きと、林の奥から眠たげなエゾゼミの声が聴こえる以外は、静かだ。
今回は、今まで成果がなかったポイントを見切り、自己開拓で目星を付けた場所へ行く。確かな記録に
は出会っていないので、ある意味賭けだ。
カラマツ林の静かなハイキングの末、ポイントに着。
環境は素晴らしいが、トンボがいない。一抹の不安を感じながら湿原を巡ると、10m以上先の草間を
ぽつんと飛ぶ影を発見。望遠レンズで覗いてみる。
いた!ホソミモリトンボ雄!
しかし飛ぶのは射程の遥か先。近付く気配が全くない。ホバリングと移動を繰り返しながら飛ぶ様は、
エゾトンボ雄そっくりだ。しかし体型はずっと華奢で、小さい。直射日光に灼かれながら、じっとチャ
ンスを窺う。
どれくらい待っただろうか。
何かの拍子に、ついっとこちらへ流れてきた。その瞬間、竿を振る。「かさっ」という気持ちのいい音。
手にしてみると、やはり小さい。昨年も書いた気がするが、感覚的にはカラカネトンボと同じくらい。
そしてすぐ壊れてしまいそうな繊細さと儚さを持っている。そのあたりはミナミトンボに近いかもしれ
ない。
ホソミモリトンボは、昨年は雌は何とか手に出来たが、雄の採集は叶わなかった。
挑戦し続けて3年目にして、念願の雄を手にでき、やっと肩の荷が降りた。
帰り道。
カラマツ林の林床のササ原で「キチキチキチ、、」と鳴く直翅が気になったので手掴みしてみる。
ヤブキリだ。東京近辺のヤブキリは、「シリシリシリ、、」と聴こえるが、所変われば鳴き声もずいぶ
ん変わるものだ。しかもこの個体、東京近辺のものよりだいぶ小型で、体型も丸っこい。
ヤブキリの分類はカオス状態なので、これが何ヤブキリなのか正確には分からないが、調べて一番近い
のが「ヤマヤブキリ」というグループ。ヤブキリは馴染みがありすぎてまともに向き合ったことがない
が、多様性をキーワードに調べてみると、なかなか面白いかもしれない。
初秋の空気を吸い込むと、シーズンオフが近いことを嫌でも感じてしまう。
残された短い時間、再び嬉しい出会いに巡り会えることに期待しよう。
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