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トンボの日々

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2010年 01月 31日

犬も喰わない話

ここの所、来シーズンに向けての作戦を少しずつ練る日々なのだが、
その過程で思ったこと。

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とある村。
長閑な農村地帯には、溜め池が点在している。
近年の後継者問題のせいか、周囲の田や畑には、放棄されたものも目立つ。
農業以外にこの村の産業は特になく、住民は静かで質素な生活を送っていた。

点在する溜め池も管理が不十分で、土砂が積もり水深は浅く、
アシ、マコモ、ガマなどの水生植物が旺盛に茂っている。

しかし、この溜め池群は、あるトンボの格好の棲み家となっていたのだ。
そのトンボは姿形が美しく、しかも既に大都市近郊では絶滅していて、
シーズンになると、情報を聞きつけた採集者が方々から集まってきていた。

溜め池が散在するおかげで、そのトンボの個体数は多く、
かつ安定して発生していた。
そして長竿を手に遠路遥々やってきた採集者たちは、
その成果に満足し、いつも笑顔で帰っていく。

はじめは異様な身なりをした採集者を地元の農家も怪訝そうな目で見ていたが、
採集者が採ったトンボを見せると、
「へえ、こんなトンボがいたんですねえ。知らなかった、、。」
と感心する。

そのトンボの出現期は短く、採集者は毎年、指折り数えながら
シーズンが来るのを楽しみにしていた。

そのころ、村役場の会議室ではある事案が議題に持ち上がっていた。

「どうやら、ウチの村には『珍しいトンボ』がいるらしいんですよ」
「それはどんなトンボですか?」
「さあ、、。でも、珍しい、というからには珍しいんでしょう」
「そうですね。じゃあ、それは保護しなければ」
「そのトンボを観光資源にできませんかねえ」
「それはいい考えです」
「じゃあ、『○○トンボの里』という名前で、
豊かな農村の暮らしを体験してもらう、というのはどうでしょうか」
「賛成!」
「『○○トンボまんじゅう』なんていうのもどうですかね」
「いいですねー。賛成です」
「PRに『○○トンボの歌』というのもつくりましょう。
地区の高校生に発表させましょう」
「ああ、そうしましょう!」
「それでは早速、地区の自治会長さんに連絡を取ってみましょう」

一年後、採集者が久々に池を訪れて、まず目に飛び込んできたのは、
「○○トンボ 採集禁止」という看板。看板には、そのトンボの写真の他に、
何故か、どう考えても普通種の写真も添えられている。
そして農家の目つきもがらりと変わった。
怪しい身なりのものを見ると、農作業の合間に遠くから双眼鏡で監視する。
それとなく近づいて、竿を出さないか見張る。

ぴりぴりと張りつめた空気にいたたまれなくなり
すごすごと採集者は引き返す。
そして路頭に迷う。どこに行けばあのトンボが採れるんだ!!

さらに一年後。
ふと気になり、採集者が様子を見に池へ行ってみて、唖然とする。
池の植物は綺麗に苅られて、水面には虚しくシオカラトンボが一匹佇む。
あのトンボがねぐらにしていた、池の周囲の林もきれいさっぱり伐採されて、
かわりにきっちりと葉先が揃った芝生が一面に敷き詰められている。
畑の中に、突如として土産物屋が出現し、
池がもうひとつあった(小さく目立たないが、トンボは多かった)場所には
広大は駐車場が広がる。農道も拡張されている。
しかし車は駐車場の隅にある二台の他は見当たらない。

今日は好天の連休なのに!!

そして肝心の例のトンボといえば、
当然のことながら、一匹たりとも姿を見つけることはできなかった。

もう、あのトンボはここで発生することは絶対ないだろう。

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この物語は基本的にはフィクションだが、出来事のひとつひとつは、
程度の差はあれ、国内のあちこちで実際に起きていることだ。

4月から始まる今年のシーズンの中でも、
またこういう経験をするのかもしれない。

トンボに限らず、虫屋は常にそういう恐怖にも似た憂鬱を抱えながら
日々ポイントを回っているのだ。

そんなことを、最近は考えている。

by brunneus | 2010-01-31 02:17 | つぶやき | Comments(4)
Commented by Mくん at 2010-02-03 23:10 x
どーもー。お久しぶりです。
だんだん太陽光の眩しさも春に近づいてきて、
シーズンまであとちょいですね。
今年もいつものようにポイント残ってればいいですねー。。。

Commented by brunneus at 2010-02-04 00:39
Mくんさん
お久しぶりです!
そうですね、確かに最近、太陽の光に力が増して来た気がします。
でもしばらくは気温は冬に逆戻りみたいですねー。
ほんとに、ポイントを巡る状況は毎年変わるので、
いつもハラハラしてます、、。

Commented by とんキチ三平 at 2010-02-06 18:37 x
どうも~~~。
採集禁止の前にギョーサン飛んでいたのはいいバランスで採集して間引きされたおかげなんでしょうね。
間引かれればエサ不足、共食いの確率減少、天敵減少、、、が働いていい感じで発生できたのでしょうね。
禁止になってバランスが狂い減っちゃったんだねぇー。
この自然界の話は、禁止人にはわかるかなぁ~?
わかんねぇだるうなぁ~?
俺がむかしカラスだった時、おやじは、、、、、、、。(笑)

2つ目のネキヤゴもうチョイで終令までになってるよ~。
Commented by brunneus at 2010-02-06 21:56
とんキチさん
採集禁止と増加のバランスは、例えば昆虫ではないですが、
カモシカの例が有名ですよね。
天然記念物指定されていたからか、各地で保護され、結果として数が増えすぎて、生息地の植生に多大な影響を及ぼした、、。
現在はどうなったかわかりませんが。
どんな生き物でもそうですが、保護、採集禁止するならその先のことまで考えて欲しいですね。

うちのヤゴは、マイナス3までいったハネエゾヤゴが、今朝久々に見たらこつ然と消えている、、。
どうやらケースの蓋の隙間から脱走したみたいです(悲)


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